生粋の日本人でありながら14歳で中国人女優としてデビュー、終戦時には漢奸として裁判にかけられた山口淑子さんの半生。
日本人で有りながら10年あまりも中国人として虚構の姿を維持した半生だけでも読むに値する面白さでしたが、それ以上に面白かったのが、国を挙げて壮大な虚構を描いた時代の一面が、李香蘭という親日中国人女優を通して端的にわかることです。
考えてみると、俳優はもともと虚構に基づいてた存在、真実に基づいて演じる必要など何もありません。女優山口淑子は時代が求めた中国人女優を演じただけのこと、貧しい育ちを隠すことがよくあるように日本人であることを隠すことは実は特別なことではなかったのかもしれません。
そして時代の虚構を存分に生きたからこそ、私はそこに真実の生と感情を感じることが出来たように思います。
今の自分自身が信じている現実も、突き詰めれば社会通念やアイデンティティという虚構に基づいたもの、李香蘭という中国人女優と基本は変らないのではないでしょうか?
虚構で成り立った世界のなかで、私という虚構を作り上げること、人が生きる目的はそうでしかありえないのだとこの本を読んであらためて思いました。