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中国を読む11/100 『玉蘭』 桐野 夏生/文春文庫

b0102720_23421693.jpg今日のキー・フレーズ
桂林路100号!
guì lín lù yī bǎi hào
くいりんるーいーぱいはおへ行って!

先日2時間ドラマとして放映されましたが、この小説とドラマは全く別の世界のように感じます。
本当に恐い小説、予定調和など何もない展開で最後には心がざらついてなんとも落ち着かない思いでした。

特に主人公の女性、有子の壊れ方はドラマとはかなり違います。
また幻想として現れる質(ただし)と浪子のストーリーは、小説ではもっと魅力的で話に溶け込んでいて、さらに最後には松村と有子のストーリーも夢か現実か分からなくなってくるのです。

萩生質(はぎゅうただし)さんは実在の実在の人物で、作者桐野 夏生さんの祖母の弟、上海・広東間の貨客船の機関士だったそうです。
有子と質をつなぐ日記は「トラブル」というタイトルで実際に萩生質さんが文芸春秋に1930年に発表されたエッセイ。遺書も本物で、実際はその後に自死したのです。
自死をあきらめ最後の伴侶に出会う後日談は、桐野さんの肉親への鎮魂歌でしょうか。

上海を舞台に、肉親の記憶と日中戦争がまぼろしとして現れ、徐々に現実と幻想が一体となってしまう物語、そうこれは、カズオ・イシグロ『わたしたちが孤児だったころ』の桐野版だと思います。

二つの違いは、カズオ・イシグロの主人公が不確かな「記憶」に過ぎない存在になっていくのに対し、桐野ワールドの主人公達は、最後まで自我を信じ自分を引きずっていくところ、そのぶんまだ幸せな物語なのかもしれません。

by chinafish | 2007-06-18 23:44 | 中国を読む